1人が本棚に入れています
本棚に追加
「おい、クソガキ」
「なっ、なんだよ」
「おまえ、泣いてるのか?」
「泣いてないよ。花粉症だから鼻水が止まらないんだよ」
「魂も鼻水出るんだな」
「知らねえよ」
化け猫から顔を隠して鼻をすするクソガキ。
「なあ、クソガキ。もしかしたら体に戻れるんじゃないのか?」
「えっ、どういうこと?」
「だからさ、試しに自分の体に重なってみなよ。そしたら案外簡単に魂が体に戻るかもしれないよ」
「そんなにうまいこといくかな」
「やってみないとわからないじゃないか。今まで一度も試したことないだろ」
ったくめんどくさいなー。こんなんで元に戻れるわけないじゃねえかよ。
ぶつくさ文句を言いながらも、素直に自分の体に自分の魂を重ねるクソガキ。
「こうして改めて自分の体に重ねてみると、なんていうか、懐かしい気持ちがよみがえってくる。というわけでもないな。天井しか見えなくて殺風景だし」
窓から風がすうっと入ってきて、レースのカーテンを揺らした。
「ねえ、化け猫。おれ、何も変わってなくない?」
化け猫は、半眼を開けたまま微動だにしない。
「なんだよ、無視かよ」
春のちぎれ雲が太陽を覆ったとたんに、病室はとても暗くなった。
最初のコメントを投稿しよう!