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「オカシラ、申し訳ない」
ぶち猫のドラは、地面に額を押し付けて土下座した。
「そんなに謝らなくていいよ」
「このボケが車の前に飛び出したばっかりに、オカシラのご主人様が車に轢かれて大変なことになっちまって。あそこには近づくなって散々言い聞かせておいたのに。おい、お前も謝らねえか」
隣に座っていた自分の子猫の頭を地面に押し付けた。
「そんなかわいそうなことするなよ」
「オカシラの坊ちゃんに比べたら、そんな大したことではねえですよ」
クソガキは、ドラの娘をかばって交通事故に遭った。
「坊ちゃんのご容態はいかがで」
「魂が抜けてしまってる。持って一か月だろう」
あたりはざわついた。
今日は月に一度の全地区集会で、ここら辺一帯のほとんどの猫たちが参加していた。
「じゃあ、坊ちゃんはもうすぐ・・・」
「大丈夫。クソガキは死にはしない」
「あの、その、オカシラ、化け猫になるって本当ですか」
「お前、その話をどこで聞いた」
「お願いします。化け猫にはならないでください。この通りです」
ドラは、再び頭を下げた。
化け猫という言葉を聞いて、あたりから悲鳴が聞こえた。
「化け猫になれるというのは、名誉なことだ」
「でも、オカシラ。今、オカシラが化け猫になるってことは。それはその・・・」
「ドラ、皆まで言うな。それに、お前はこれから南地区の長になるんだ。しっかり勤め上げるんだぞ」
「すまねえ、オカシラ。ほんとうにすまねえ・・・」
ドラは泣きじゃくって頭を下げた。
化け猫はまわりを見渡した。
満月は、周りの薄雲と夜の世界を静かに照らし、集まった猫たちの輪郭をぼんやりと浮かび上がらせていた。
ドラの泣き声はまわりの猫たちに少しずつ伝達していって、集まった猫たちは深い悲しみに包まれていった。
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