SOUL OUT

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「ごめんくださーい、って、あら、誰もいない」  クソガキの幼馴染の女の子が病室に入ってきた。 「おれがいるだろ」 「普通の人間に魂は見えない」 「知ってるよ。そうじゃなくて、おれの体がいるだろうが」 「まあ、そうだけど」 「失礼なやつだ」 「あら、ミイちゃんこんなところにいて。病院に入ったら怒られちゃうでしょ」 「みゃーあ」 「ミイちゃんだって、気持ち悪い」 「お前だって小さい頃はミイちゃんって呼んでただろうが」 「そうだっけ?」  幼馴染は病室の窓を開けた。風がレースのカーテンを優しく揺らした。 「へーくしゅん!このボケ、窓を閉めろ!」 「ああ、確かおまえは花粉症だったな」 「イーキシッ!体が花粉を吸いこむと、魂がくしゃみをするってどういうこと?」 「面白い機能だな」 「無駄な機能だ」  まだ、クソガキの体と魂はつながっている。でも、それは持って一ヶ月だ。  体と魂のつながりが切れてしまうと、クソガキの魂はあの世に行ってしまう。  時間はほとんど残されていない。 「もうすぐゴールデンウィークね」  幼馴染はだれに言うでもなく話し始めた。 「私ね、クラスの友達とどこか遊びに行こうって計画してるのよ」  幼馴染は、クソガキに向けて話している。  意識はなくても、声は聞こえているはずです。だから、話しかければ意識は戻るかもしれませんと医者に言われたからだ。 「電車に乗ってね、隣町のパルコに行こうって。それから、その近くに有名なソフトクリームがあってね、それを食べながら街を歩こうって」  幼馴染の話し声は、静かな病室にほんのわずかに響いてすぐに消えていった。 「わたしね、友達どおしで電車に乗って街に行くのって初めてだから、ちょっと不安だけどとっても楽しみなの。ねえ、うらやましいでしょ?」  コロコロと明るい声はしだいに暗くなり、涙声に変わっていった。 「ねえ、お願い。戻ってきて。それだけでいいから、お願い・・・」  幼馴染はクソガキの手を握りしめてうつむいた。  クソガキは幼馴染の背中が震えているのを真上から見つめていた。  見つめることしかできなかった。  クソガキが病院に行きたくない理由を化け猫は知っている。  幼馴染の悲しむ姿をみたくないからだ。
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