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「どなたぁ?」
日和がパイプ椅子越しに振り返る。
ドアが開くと、小柄な年配男性が佇んでいた。
「あ、トッチー。遅い~!」
馴れ馴れしい態度で日和が話しかけると、男は「ソーリー、ソーリー♪」と、やはり親しげに片手を上げた。
「誰、この干からびたおじいちゃん」
至近距離なのを幸いに、飛鳥が日和に耳打ちする。
「トッチーのこと? ああ、顧問の先生だよ」
このシワシワのおじいちゃんが!? という言葉を飲み込み、目を丸くする飛鳥に、日和はさらに続けた。
「ていうか、土地本先生、英語のリーダー担当だよ。飛鳥さん、先生の顔まだ覚えてないの?」
芸能界から逃れられればそれでいい。
そんな理由で決めた高校だったのだ。
教師の顔どころか、クラスメイトの顔すら実は未だによく分からなかった。
トッチーこと土地本先生は、日和が手にしていた『good-bye mother』の台本に目をやり、ニッコリと2人に微笑みかけた。
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