1.スカウト

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「どなたぁ?」 日和がパイプ椅子越しに振り返る。 ドアが開くと、小柄な年配男性が佇んでいた。 「あ、トッチー。遅い~!」 馴れ馴れしい態度で日和が話しかけると、男は「ソーリー、ソーリー♪」と、やはり親しげに片手を上げた。 「誰、この干からびたおじいちゃん」 至近距離なのを幸いに、飛鳥が日和に耳打ちする。 「トッチーのこと? ああ、顧問の先生だよ」 このシワシワのおじいちゃんが!? という言葉を飲み込み、目を丸くする飛鳥に、日和はさらに続けた。 「ていうか、土地本(とちもと)先生、英語のリーダー担当だよ。飛鳥さん、先生の顔まだ覚えてないの?」 芸能界から逃れられればそれでいい。 そんな理由で決めた高校だったのだ。 教師の顔どころか、クラスメイトの顔すら実は未だによく分からなかった。 トッチーこと土地本先生は、日和が手にしていた『good-bye mother』の台本に目をやり、ニッコリと2人に微笑みかけた。
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