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「ファリス…!ファリス!」
涎の垂れた僕が左右に揺さぶられた。
「戦場で眠るとはいい度胸だな!ハッハッ!かの軍神・月詠公でもそんな真似はしないぞ!」
「おやっさん…?」
「暫く寝せてやりたかったんだがな…。ちと困った事になってな…。お前の力を借りたいんだが…。」
「出陣しろって事ですか?」
ガイストはバツが悪そうにした。
「本来はこんな事絶対に無いんだがなぁ。すまん。カムリを救出してくれないか?」
「!?。カムリがどうかしたんですか?」
「あの馬鹿…。敵に攻撃をしないみたいなんだ。あの責任感の強いカムリが信じられん。なにかあったのか…。何があった?」
本陣のクラマ山から見下ろす景色は正に絶景と言えた。樹木が生い茂り、赤緑に枝葉が彩られ、ランダムな迷彩模様を覗かせたソレはどこまでも吸い込まれてしまいそうになってしまう程に深く、また美しかった。
その先、平地と山の境目の緩やかな丘陵でカムリのシルバーウルフは敵に囲まれてしまっていた。
コボルデ六対一の形勢。カムリはどうやら本来の力を出さず、敵の攻撃を受けては後退していた。
「この作戦、勝利は我が軍に間違い無い。だが何故かカムリが危ない。カムリを失う訳にはいかない。俺直々に出たい所だが陣を離れる訳にもいきまい。」
あんだけ嫌がってた初陣がまさか今日になるとは。カムリ、今助けにいくから…!」
ハアハア…ファリス…。俺はただの人殺しじゃないぞ…、またあの頃に戻ってしまう所だった…。あの醜い殺人鬼の頃に…。
カムリのシルバーウルフは最早逃げ疲れ相手の攻撃を喰らうが儘にされていた。フレームをバキバキにされ腕は変な方向に曲がり、片足は浮いている状態で何よりカムリの心が折れていた。
機体が折れているからではなく、デバイサーのカムリ自身が折れていたのである。
「銀狼、貴様の最後がまさかかような呆気ない終わりだとはな。」
「噂程も無い、ただの雑魚だ。」
「いやいや、噂通りの盆暗よ。」
下卑た笑い声をあげると、事態は享楽的な様相を呈してきた。
「散々、我らを苦しめた男の顔が見たいと思わないか?」
「我らと同じ醜男だったらどうしよう。」
「禿げ、デブ、不細工の三重苦の我らに勝る、醜悪な面相なら助けようぞ。」
カムリは激しい機体の揺れやダメージで意識が朦朧としていた。
(ファリス…!)
次第に意識が薄れ失神してしまった…。
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