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ひとりでぶつぶつと言いながら、私は改めて店内を見渡す。
席の仕切りには観葉植物が飾られ、わりとどこにでもありそうな喫茶店だなと思いつつ、カウンターを見ると、そこには長身で白いワイシャツに腰巻きの黒いエプロンがよく似合う男が立っていた。
――かっこいい人だな。
無駄な肉のついていないスッキリとした輪郭に、均等に配置された顔のパーツ。鼻筋も通っており、薄い唇も相まって端正な顔立ちを作り出している。
しかしながら、その清楚な黒髪に反して切れ長の瞳は凶器と言っていいほど鋭い。私が恐縮しきって肩をすくませていると、男が大股で目の前にやってきた。
「お前、どこかで会ったか?」
「え、初めてだと思いますけど」
こんな美男なら記憶から消えることはないと思う。なにより、平気で人を刺しそうな凶悪な目つきの彼を簡単に忘れられるはずがない。人間というのは命の危険に敏感な生き物なのである。
だが、彼は私の顔をまじまじと見つめて、納得がいかなそうに腕を組む。その眉間にしわが寄り、ますます人相が悪くなった。
「まあいい、水月(みづき)」
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