▼一話 食べかけのトマトスープオムライス

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 誰かの名前を呼んだ男はカウンターを振り返る。すると、薄いブラウンの髪と瞳を持つ二十歳くらいの青年が黒革のメニュー表を手にこちらに駆けてきた。  喫茶店の制服に身を包んでいるので、おそらく同僚だろう。 「お待たせしちゃってごめんね。こいつとふたりきりなんて、さぞかし怖い思いしたでしょ。この社那岐(やしろ なぎ)って男は、二十六にもなるのに愛想っていう世渡りの基本中の基本スキルを獲得できなかった哀れな男でさ……ごふっ」  水月と呼ばれた青年の首を締めあげて言葉を封じたのは、凶悪面――ではなく、社さんだ。  会って早々に従業員の悪口を客である私に饒舌に語る水月さんといい、この店の店員はキャラが濃い……って、それは置いておくとして。  強烈な面々に圧倒されていた私は、本来の目的を思い出す。 「あの、社さん。ここは死んだ人に会わせてくれる喫茶店なんですよね? 私、どうしても会いたい人がいるんです」  縋る思いで尋ねると、社さんは「那岐でいい」と言ってカウンターに戻ってしまった。その背を呆然と目で追いかけていたら、水月さんに背中を押される。 「席に案内するね」 「あ、はい」  私は促されるようにして、喫茶店の真ん中の席に座らされた。そわそわと視線を彷徨わせていたら、角の席に黒い影のような物体を見つける。     
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