▼一話 食べかけのトマトスープオムライス

17/33
前へ
/96ページ
次へ
 そんなとき、私の心を見透かしたように那岐さんは言う。 「お前が会いたい相手も黄泉の国に帰れないどころか、永劫に転生ができなくなる。だから、どんなに離れたくなくても決まりは破るな」 「茜が……生まれ変われなくなる……」  私の願望が茜の未来を奪うかもしれない。そんなこと、私の一存で決めていいことじゃない。 できるならずっと一緒にいたけれど、茜の幸せを思えば、決まりは絶対に守らなくちゃいけないことだってわかる。  私が茜と会えるのは一時間だけ。少ないけれど、私にとっては奇跡のような時間だ。  あの日みたいに一方的に自分の意見を押しつけるんじゃなく、茜の気持ちをちゃんと聞いてあげたい。  そう思っていると、那岐さんの視線が私からずれる。 「現に帰れなかった人間と幽霊がいるからな」  終わったとばかり思っていた話は信じられない方向に進んで、私は「え?」と那岐さんの顔を凝視する。でも彼は、私の隣にいる水月くんを見ていた。 「いい例がここにいるよ」  那岐さんの視線に気づいて、水月くんが苦笑しながら手を挙げた。 「六年前、俺は弟の陽太を呼び出した。でも、ずっと一緒にいたいからって傲慢な理由で、あいつの分の料理を食べたんだ」 「えっ、でも……それじゃあ水月くんは……」     
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

296人が本棚に入れています
本棚に追加