▼一話 食べかけのトマトスープオムライス

2/33
前へ
/96ページ
次へ
「うるさいな。というか、食べてるときくらい携帯いじるのやめなよ」  二十三歳である私とふたつ違いの茜は最近、携帯アプリのリズムゲームにハマっている。 一日一回ログインしなければ利用券がもらえないだの、今はイベント中だから手が離せないだの、まるで仕事であるかのように分刻みでゲームをしていた。  現に「ゲームしないと」が口癖で、義務感に囚われているところを見ると、妹は二十四時間三六五日、携帯という魔物に支配されている。 「一緒にご飯を食べに来てるのに、感じ悪いよ」  こうして食事中の携帯の使用について注意するのは、何度目だろう。言ったところで、「うるさいな」くらいにしか思っていないんだろうな。  私だって、できることなら注意なんてしたくない。この会話になると妹は決まって不機嫌になるから、こっちも嫌な気分になるし、面倒なのだ。 「母親面しないでよ」  予想を裏切らず、茜は唇をへの字にして文句をたれると、やけくそにオムライスを頬張る。こうなったら、小一時間は口をきいてくれなかったりする。  うちは小学生のときに両親が離婚していて、シングルマザーの家庭で育った。働きに出る母の代わりに、家事をするのは私の担当。     
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

295人が本棚に入れています
本棚に追加