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一、
ダムの建設が決まったあと、住民は移転を求められ、いち早くこれまでの役目を放棄したのは小中学校だった。子供たちが義務教育を受けられないのではしょうがない。そんな理由に後押しされて、多くの家庭が村を捨て、やがて働き手がない畑を持て余した老人たちも村を出た。
政府の事業というのは果てしない時間を組み込んだ計画で、ダムが完成するのは十何年も先の話であるらしい。にもかかわらず、村はすでに廃村となり、野放図に育った作物や庭木などで、いつしか奇妙な森の様相を呈している。
恐ろしく長い道のりをひたすら徒歩で訪れたビャクレンは、その鬱蒼とも繁茂ともつかない光景にうんざりと先を眺めた。
元々舗装されていない道は、半年あまりで獣道も同然になり果てている。足元には蔓性の植物が伸長し、育ち過ぎた木々の梢で辺りは薄暗い。
振り返ると、弟のモクレンが道草をくっている。文字通り、道ばたのよくわからない植物を摘んだり観察したりしていた。
ビャクレンはこれにもまたうんざりして、目を眇める。幼い弟は、いちいち呼んだり急き立てたりしなくては直ぐに気を移ろわせて一向前に進まない。夏休みの期間中に村への里帰りを持ち掛けてきたのは彼なのにだ。
ビャクレン自身はそれほど乗り気ではなかった。新しい学校友達との付き合いもあるし、教科書の変わった授業の宿題もこなさなくてはならない。何より、従兄弟に会うのが厭だった。
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