春よ、再び

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春よ、再び

「こ、これは……、本物か!?」  先端医療研究者である落水は、大往生したジンガイ博士の遺品を整理していたとき、偶然見つけたフォルダからそのデータを発見した。 「……すごい、完璧だ」  それは若返りを起こすカクテル遺伝子薬『Youthful 4』と、その用法のデータだった。  その詳細は、一過性トランスフェクション法用の対人高効率発現ベクター『Hum Vec 40(これ自体がとんでもない代物で、特許を取れば間違いなくビリオネアである)』と、それに導入する数十種類の遺伝子のデータ、そしてその数十種類の遺伝子のブレンド割合も『動物実験』からはっきり算出してあった。  その『Youthful 4』は脊髄に注射して身体を安静にすることで、3日間ほど導入遺伝子の一過性発現が起こって全身に若返り効果が及ぶという。  ジンガイ博士の記述によれば、10歳程度若返るには約9日、3回の投与が必要らしいが、投与後一週間もすると、体内の『Youthful 4』は完全に生分解され、あらゆる検査に引っかからないという。 (ほぅ、これが被験者を安静状態に維持するって装置『Y4 Liquid Pot』か……。被験者を水中で療養させることで、身体への歪み発生を防ぎ、若返り進行が7%も……) 「なんだと!?Ver 2.03だって!!」  『Y4 Liquid Pot』……、これの製造費は開発費抜きでも軽く数十億を超えている。しかも試薬等のランニングコストを加えると倍では収まらない。それなのにさらに改良型を開発するとなると…… 「数兆……、いや、10兆に届いている?いくら先生でもそんな資金は……」 (パトロンだけでは足りない。クライアントが……、100いや、1,000人以上いたはずだ)  パソコンの隠しフォルダに見当をつけて探索すると案の定、数千人規模の名簿を見つけることができた。 (ジンガイ先生のことだ、6割はモルモットにしているんだろうけど……。お、あった)  どこぞのダイエットCMよろしく、被験者が段階的に若返る様子を映している動画がいくつも見つかった。  確かに『Youthful 4』は本物で、すでに若返った人間が何千人もいるらしい。……そして、恐らく今もどこかで若返っている人間がいるに違いない。
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