誰にも渡さない

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「あんまり可愛いから、もう、止まんねえよ」  額にそっとキスを落とすと、柔らかい髪の毛からふわりと優しい香りが漂ってきた。  花のような甘い香り。  その香りを初めて間近で嗅いだのは、まだ付き合い始めるよりも前の去年の文化祭。  とりまきたちを撒いてやっと美紅と二人きりになれた時、見つかりそうになって大きな段ボールの中に隠れた。  継ぎ目に僅かな光の筋が見えるとはいえほとんど真っ暗な中で、俺の立てた膝の間にいる美紅。  視覚が遮られたぶん他の感覚が研ぎ澄まされるのか、鼻先にある美紅の髪から漂う香りに酔いそうになった。  少しでも動くと触れてしまう小さな身体の薄いポロシャツ越しに感じる体温に、抱きしめてしまいたい衝動を堪えるのに必死だった。
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