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「タクシーを拾おうと思っています」
花束と手に持つ荷物を少しだけ持ち上げ、私も苦笑いを返す。
「そうか、その方がいいな。
……槇村がいなくなると淋しくなる。
もっと長くいてもらいたかったが、会社の方針なら仕方ない。
残念だ」
「……ありがとうございます」
社交辞令でも、梅原課長が残念がってくれたのは嬉しい。
ここでの私の仕事が、認められた気がするから。
チン、とそのうちエレベーターが到着し、梅原課長とふたりで乗り込んだ。
この時間にしては珍しく、中はふたりっきり。
「次の職場は決まったのか」
じっと、前に立つ梅原課長の後ろ姿を見ていた。
トートバッグを持つ彼の左手薬指には指環が光っている。
「あっ、はい。
一応」
「そうか、よかったな。
槇村ならどこに行っても歓迎されるだろう」
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