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そこはやはり代わり映えのしない住宅街。
路地の先の電信柱には住所表記が掲げられていて、間違い無く『6丁目』と書かれている。
結局、あの日の疑問をそのまま忘れた俺は何十年も経ってから、その実在を証明したわけだ。
「やっぱり学区が違ったんだろうな」
小学校、中学校と学区通りに通っていたが、結局6丁目出身のやつはいなかった。少子化が進んだ現代とは違い子供が多かったので隣町の学区にでも吸収されていたのだろうか。通学路から一本入るだけの同じ町内だったのにその存在すら知らなかったなんて……俺は随分地元愛に欠けた子供だったんだな。
そう思いながらもフラフラと6丁目の街並を進んでいく。
「あれ? 藤井?」
突然、男性から声を掛けられた。
目の前には白髪交じりの中年男性だ。
「あ、えーと……」
俺の名前を呼んでいるから知り合いなんだろうが、咄嗟に思い出せない。
「藤井だよな? よかった。俺の事はわかんねぇのか。仕方無いよな。40年ぶりか?」
「ああ、すまん。地元を離れて随分経つんで」
「そうだよな。わかんなくても仕方無いよな。いやぁ、懐かしい」
名乗れよ。
そう思ったが親しげに話しかけてくる男にそう言い出せず、俺は曖昧な笑みを浮かべた。
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