6丁目

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 異常事態は異常事態なのだが、俺と吉田から微妙な距離を開け取り囲む人々は俺を観てニコニコ笑いながら語りかけてくるだけだった。その表情は本当に懐かしい同級生を歓迎するものだったし、どこかあの頃の面影がある。これがホラー映画ならゾンビに囲まれて逃げ出すようなシーンなのだが、長閑な雰囲気が逃げ出すタイミングを見いだせない。 「吉田……なんでこんなに人がいるんだ?」 「なんで? なんでってねぇ」 「「「「「「ねぇ」」」」」」  吉田の声に一斉に周囲の人間が相づちを打った。  よかった。正しく異常事態のようだ。ようやく俺は逃げ出すタイミングを得た。逃げよう。 「お、俺、帰るよ」 「そうか?」 「ああ、うん」  豹変して襲ってくる場面な気もするが、特に俺がそう言っても何か雰囲気が変わるわけでもなく俺を取り囲む人達はニコニコと俺を観ている。 「またな」 「ああ……またな」  よし、このまま…… 「真一」  え?  俺は懐かしい声に足を止めてしまった。 「真一」 「か、母さん?」  振り返るとそこには死んだはずの母と……父の姿があった。 「な、なんで」 「元気そうだね。よかった」 「結婚はしたのか? 仕事は順調か?」 「ああ、うん。元気だよ。結婚もしている。子供は2人。仕事も順調」 「そうか。そうか」  両親の目には涙が浮かんでいた。  その姿を振り切って俺は走り出すことなんて出来ない。 「母さん……本当に? 父さんも……」 「ああ、そうだよ。あの日、真一だけこなかったからな」  父さんがニコニコしながら頷く。  あの日?  あの日――  そうあの日。     
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