目覚ましくありふれた一日

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 たどり着いた弟の部屋の前。これまた物音を立てずにドアをゆっくりと開き、生じたわずかな隙間から室内を覗き込んだ。 「……えっ」  予想外の光景に思わず声がこぼれてしまう。慌てて口をおさえ、恐る恐る再度確認する。  驚いたことに、弟はちゃんと勉強机へ向き合っていた。  何たる嬉しい誤算だ。奴もやる時はやってくれる奴だった。 「……んん?」  けれど、よくよく目を凝らしてみると、それがぬか喜びだったことに気づいてしまう。残念ながら手にしているのは教科書や参考書の類ではないようだ。 「あれは……スマホ?」  しかし、同時にほっとしている自分もいる。仮に勉強に励んでいたとしたら、それほどまでに合格が危ぶまれる瀬戸際なのかと、絶対に小一時間ほど問いただしてしまっていた。  それにしてもスマホとは。電子書籍やゲームアプリという可能性もなくはないが、あの弟がそういった物に手を出しているとは思えない。漫画は紙派、ゲームは据え置き型派のはず。 「あやつめ。一体、何を……」  目を細め、意識をスマホへと一点集中させるも、この距離では画面が見えるはずもなく。これほどまでの熱視線を向けていては、気配を悟られても何らおかしくないと思うが、なおも弟はスマホと睨めっこをし続けている。 「……」  これは気になる。何が彼をそこまで夢中にさせているのか。
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