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新酒造りは仕込みが終わって熟成に入っている段階だった。タンクの蓋を開けて原酒を見せてもらった。お米を噛んで噛んで噛んで完全に分解された時のような香りに包まれる。デンプンがゆっくりと糖になりさらにお酒に生まれ変わる。まさに楓さんが言っていたお酒の赤ちゃん。そんな感想を得た。
櫂入れと言って大きなおたまでタンクの中身をかき混ぜる仕事を手伝わせてもらった。
櫂は重くてびくともしないが、センパイは軽々とかき混ぜていた。
「センパイの筋肉が役に立つ所初めて見ました」
「お前、タンクに突き落とすぞ」
「お酒の中で泳げるなら本望っス!」
「お前な」
センパイは呆れるが、その顔は普段と同じだったので安心した。
蔵の見学も終わり再び楓さんと控え室に着替えに戻る。
「ご主人、素敵な方ですけど、どこが良くて結婚したんですか」
そう聞いた後、失礼言い回しになっていることに気づいた。
「あれ、ごめんなさい。なんか、その」
「大丈夫よ。言いたいことはわかるから」
楓さんはにっこりと微笑む。
「私がどうして主人と結婚しようと思ったのか、でしょ?」
私はぶんぶんと音が鳴るぐらい首を縦に振った。
「幼馴染とか20年とかそんなのはどうでも良かったの」
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