3月13日

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そう言うと楓さんは奥へ行って、すぐに戻って来てくれた。その手にはお盆とお猪口とその中になみなみと透明な液体が入っていた。 「ほら、万能薬よ。あなたの恋煩いにも効くかしらね」 楓さんは自らの名前が由来になった日本酒のお猪口を差し出してくれた。 ゆっくりと口に含む。お米の優しさと温かさがじわっと広がる。鼻を通り抜ける香りが花畑のように細やかな、でも確かな甘さを伝える。ああ、本当にこのお酒は心の底から美しい。旦那さんが楓さんの名前を冠したのがわかる。 「どう、少しは効いたかしら」 楓さんは微笑みながら聞いてきた。 「全然効きません」 「あら、お口に合わなかったかしら」 「とても美味しかったです。あと一杯ぐらいいただけば効くと思います」 「二杯目からは有料よ」 「ありゃ、しっかりしてる」 二人で顔を見合わせて笑った。
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