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酒蔵の門を出た時には既に日は落ちていた。街灯の少ない地域だからところによっては先が見えないぐらい暗い。怖いのでセンパイに引っ付いて歩く。
「田中、大丈夫だ。ちゃんと駅まで送って行くから」
「センパイの家この近くでしたよね。行ってもいいですか」
「今、散らかっているからダメ」
「大丈夫っすよ。エッチな本があっても気にしないですよ。私、お兄ちゃんいますから慣れてます」
「いや、そんなんじゃないんだが」
「もしかして女性と同棲してるとか」
冗談めかして聞くが、内心ビクビクしている。
「そんな訳ないのは、お前が一番よく知っているだろ」
ちょっと安心する。
「センパイ、トイレ貸して欲しいんです。ちょっと飲みすぎちゃって」
誘い方下手な大学生か、私は!内心自分にツッコミを入れる。
「具合悪いなら言えよ。うちまでそう遠くないから少し頑張れよ」
あっさり引っかかってしまうセンパイの人の良さを逆に心配してしまうが、とりあえずチャンス到来。
その後の作戦は考えてないけど、楓さんが言っていたように『自分の心と相手の心に耳を傾けて』みよう。
センパイの家に着くまで、何があっても驚かないように、色々想定しておく。
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