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2月10日
しばらくして会場になれたセンパイは一人でフラフラと店に入っては「神戸でしか売ってないやつだ」とか「これ富良野行かないと食べれない限定品」とか騒いでいる。しまいには周囲のおばちゃんに講釈たれるほど。私が居づらくなって場所を離れた。
まさかバレンタイン会場でアウェイになるとは思ってなかった。エントランスにあるベンチに腰掛ける。手にはチョコ一個。センパイが自分で買うよりもずっと安いもの。これを渡すのもためらうけど、渡さないのもなんだかなと悩んでしまう。
男って自分の好きなことあったら、子供と変わらない。友人の彼氏で森林が好きすぎて、とうとう北海道の原生林管理人になってしまった人がいる。思い立ったらすぐに旅立ったらしく、友人は悲しそうにしてたが、そのうち北海道に追いかけて行ってしまった。散々馬鹿にしたけど、幸せにしてるという便りが届くと羨ましい気持ちが先立つ。
ため息とともスマホのタイマーを30分にセットした。
自分できめきれないからカケすることにした。
センパイが30分以内で私が居ないことに気づいたらセーフ。それを過ぎたら、好きなだけチョコにまみれていればいい。あんな冴えないチョコゴリラじゃなくても、いい男はたくさんいる。
アプリのゲームでもして時間を潰していよう。
「居なくなるなよ」
息が上がったセンパイが私の目の前に来た時、タイマーは『29分38秒』を指していた。
「ホントにギリギリですね」
「ん、何の事だ」
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