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チビチビ呑んでるつもりでもあっという間に一本目が空いてしまった。
このお酒はぬるめの燗が合いそうだ。台所で瓶を湯煎にかける。
湯煎にかけるものが手づくりチョコならセンパイも喜んでくれるんだろうな。そんなことを考えていたら、当のセンパイから電話がきた。
『あ、田中、今日はありがとう。体調大丈夫か』
今日、先に帰ったのは体調不良のせいだと思っている見たい。優しいけど、ちょっとだけポイント外しているんだよね。大丈夫ですよ。コウハイは日本酒で絶好調です。
「センパイ、わざわざありがとうございます。すみません、最後まで居れなくて」
『ん、いつもより元気がないな。ゆっくり休めよ」
しおらしい声色も通じない。ホントどうしてくれよう。
『このお礼はいつかするからな』
「あ、センパイ、日本酒の蔵元さんと知り合いって言ってましたね」
『ああ、いつも行くトレーニングジムでよく会うんだ。少し年上だけど、仲良くしてもらっているぞ』
「じゃあ蔵の見学をさせてもらってもいいですか」
『蔵見ても酔えないぞ』
センパイの下手くそなジョークにイラッとくるが、ここは私が大人にならないといけない。
「センパイから頂いたお酒とても美味しいです。しかも蔵元杜氏の方はとても素敵ご夫婦らしいのでお会いしたいです」
「相手のある事だから即答出来ないけど、聞いてみるよ。俺も行ってみたい」
あとは他愛ない業務連絡だけして電話を切った。
目の前の日本酒が熱くなり過ぎないかばかりが気になってしまったから。
いい感じに人肌温まった燗は予想通り美味しかった。ふと思いつき、窓を開けてみる。
二月の夜の風は火照った頬を心地よく撫でていく。こんな寒空で呑むには人肌が一番合う。
「ゴリラの人肌か。暑苦しそう」
綺麗な三日月を見上げながら、一人笑った。
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