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近頃センパイがボンヤリしている事が多いのが気がかりだ。忙しい時期だから疲れているのか。いつも心配して声をかけるが、パッとしない答えが返ってくる。
大きな背中が心なしか小さく感じる。辛いことを一人で抱え込んでないといいけど。
目的の酒蔵は閑静な住宅街に紛れ混んでいた。
長く続く白壁の途中に小さなドアとチャイムがついていた。こんなのセンパイの案内がなければ、絶対たどり着けない。
ドアのところで出迎えてくれたのは、和服姿の女性だった。
「今日はよろしくお願いします、楓さん」
センパイがそう挨拶した。和服の似合う和風美人で、この人なら20年も想われ続けてもおかしくない。
母屋の奥から出てきたのは、蔵元杜氏でご主人の大岩健二さんだ。初対面で失礼だけど、なんだか想像通りすぎておかしかった。もちろん表に出さないように震えながらも堪える。
「なんだお前緊張してるのか」
やめろゴリラ。せっかく耐えているのに中途半端に突っつくな。
「じゃあ、蔵に入る準備しましょうね。お嬢様はこちらで」
奥様に促され、場を外す事が出来た。
「本当に助かりました。奥様」
「奥様は、やめてよ。なんだかくすぐったいわ。楓でいいわ」
「ありがとうございます楓さん。私も美春で呼んでください。いや決して悪い意味ではないんですけど、ご主人があまりに想像通りで」
「あら、主人を知っていたの?」
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