ポップコーンはキャラメル味

3/32
前へ
/150ページ
次へ
 さぁぁ、と血の気が引いていくのを感じる。運動もしていないのに汗がじわりと皮膚に滲みだしてくる。心臓は跳ね上がり、言葉になりそこなった声が喉の奥で枯れていく。 「完全に忘れてた! 教えてくれてさんきゅー! 愛してるぜダイチ!」 『おう、じゃあ今度学食おごれよな』 「あぁー? 電波が悪くて聞こえないぞぉー?」 『テメッ……』  ヤバいという言葉で脳が埋め尽くされる。いかに優しい教授といえど、テスト未受験はインフルエンザとかじゃない限りは無条件で落単。スマホを見ると、テスト開始まで3分を切っていた。こういうとき、下宿していて良かったと心から思う。大慌てで着替えながら準備をする。家具に何度もぶつかって部屋が散らかるが、それに構うことなく、鞄をひったくるようにして持ち肩にかけ、玄関の扉を全力で開けた。 「へぶっ!?」  扉越しに鈍い感触がし、女性の悲鳴が聞こえた。僕が扉を開けた瞬間、たまたまその前にいたのだろう。とても申し訳ないことをしてしまった。 「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか?」  と、ここで小さな違和感を覚えた。僕の部屋はこのアパートの突き当りにあるので、僕の部屋の前を通る用事というのは、すなわち僕の部屋に用事がある以外にはありえない。   しかし、悲しい話だが、自宅に訪ねてくるような仲の女性の知り合いは、僕にはいない。せいぜい、からかい半分で偶に遊びにやってくる妹くらいだ。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加