16人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの、本当にゴメンね。それじゃあ、僕は先を急ぐので……」
「『Nrnrndud lwl nlurphhwrux』……」
ちょっと危険な香りがしたのて、そそくさと逃げ出そうとすると、袖を掴まれた。おまけに謎の言語で呟いている。確実に日本語ではないが、一人称と二人称だけは知っている5ヶ国語のどれにも該当しないので、何を言っているのかさっぱり分からない。どうやら本当に痛い子みたいだ。
「……『Ndqdwdh』」
そして瞬きをすると、目の前には見慣れた大学があった。反射的に彼女の方を向くと、神秘的な光に包まれていた。その光も急速に淡くなり、やがて消えると、視線に気が付いたようにして彼女はこちらを見て、ちょっとだけ自慢げに微笑んだ。その微笑みにどこか懐かしさと嬉しさを感じていると、人差し指で頬を軽く突いてきた。
「テスト、頑張って来なさいよ。……それから、エイガ、楽しみにしてるから」
そういうと、スタスタと歩いて行った。その様子を呆然と眺めることしか出来ず、遠くに聞こえるチャイムの音だけが静かな朝に木霊した。
「…………何これ……夢?」
白昼夢でも見ているのだろうか、あまりにも現実離れしたこの事象に脳の処理は追いつけず、結果、しばらく佇むことしかできなかった。
もちろんテストには遅刻した。
最初のコメントを投稿しよう!