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「朝陽見に行こうぜ!」
深夜零時のことだった。そう言われたのは。
近くのコンビニに来いと言われたから、言われるがまま行くと、そこには車に乗った奈津美がいて、夜だっていうのにサングラスなんかして、バカ丸出しだった。
思いついたら即行動するのが、奈津美の悪い癖だ。即すぎるせいで、準備も何もしないで動き出すから、僕はかれこれ十年以上は頭を悩まされている。
「朝陽って、今から?」
「そうだよ」
「わざわざレンタカーまで調達したの?」
「いんや。家の。明日誰も使わないっていうから」
「大学は?」
「一日休んでも変わんないし、お前だって何度か休んだことあんだろ。何良い子ぶってんだ乗れ乗れ!」
「はいはい。わかりました。飲み物買ってきたらね」
「ははん、全部用意済みだっての」
「飲み物も?」
「お菓子もある」
「何処まで行くの?」
「犬吠埼」
「海辺じゃん。寒いじゃん」
「毛布と余分に上着持ってきた。カイロもあるぞ」
「……どうしたの、約束してたっけ?」
「なんで思いつきを約束すんだよ。わたしだってこれくらいもう出来るっての」
「嘘だ、奈津美はそんなこと出来ない」
「おお喧嘩売ってんな? いいぜここじゃ警察呼ばれるから海行ったら埋めてやるよ乗りな」
この異常事態が誰に理解できるだろう。誰にも出来ないから、分かち合えない。例えるなら、しつけのなってない犬が急に待てお座りお手など出来るようになったような、いつも誰にでも吠えてた犬が吠えなくなったような。
良いことなのに、何処か寂しいような。
僕の混乱なんて本人は知りもしないで、僕を助手席に押し込むとすぐさま出発した。ナビを見ると、犬吠埼までは二時間くらいらしい。朝日が六時過ぎくらいだとすると、四時間もある。
ああ、この辺は、考えなしのまま、いや待て、それを見越しての毛布か。それと車。
やっぱり、今日の奈津美はおかしい。
それとも、奈津美なりに、成長した、のかな。
僕もお役御免ってわけか。
「おい亮二酒注げよ」
「ああ、やっぱりバカだわ」
「冗談だっての、ノリが悪いわー」
「ほら、サイダー」
「口移しで」
「ああやっぱりバカだわ」
「同じセリフ二回言ってんじゃねえよ! ふふ、ははは」
「上機嫌だこと」
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