思い出と未練と

5/5
前へ
/5ページ
次へ
「はあー。よく寝た」 「おはよう」 「亮二もよく寝てたな」 「疲れてたのかな」 「わたしのお守に?」 「それもあるね」 「言うじゃんか。でもどうよ、今回の奈津美様の用意周到さ。成長したわーほんと」 「自分で言う?」 「じゃあ亮二が褒めろよ」 「うん、よくできました」 「おう。もう亮二はいらないな!」 「酷いなあ」 「だから、心配しなくていいからよ」 「うん」 「安心していけよ」  朝陽が昇った。目の奥に刺さって痛い。あの日よりも、何倍も眩しい。 「僕がいなくても、泣いちゃだめだよ?」 「バーカ。もう絞り出したわ」 「本当はもっとずっと、傍にいたかった」 「そういうのいいから。ほんと良いから、もう泣かないから」  別に、泣かそうとしているわけじゃないんだけどな。 「そう?目潤んでない?」 「よく見ろよ」 「どれど――」  確認しようとしたら目は閉じられて、冗談を言おうと思っていた口は塞がれた。  本当に、ずっと傍にいたかった。奈津美の横は、ずっと僕が良かった。  そう言ったら、信じてくれるかな。今なら、信じてくれそう。でも、それだとたぶん、泣かせちゃうよね。  だって今も、きっと。 「冥土の土産ってやつだ。初めてをくれてやるよ」  離れた奈津美は、してやったりと言う顔。 「次があると良いね」  本当は、ないと良い。でもそれは、僕が願っていいことじゃない。 「あるに決まってんだろ誰だと思ってんだ」 「奈津美だと思ってるから言ってるのに」 「うるせーな、ほら、浄化されろ」 「悪霊じゃないよ僕」 「なら、いつかまた会えんだろ」 「そうかもね」  そうだと嬉しいな。  なんだか言いたいことはたくさんあるのに、その全てが、言っちゃいけない言葉に思える。だから、曖昧に笑うしかない。  どうか、幸せであってほしい。それだけは、嘘偽りない。でも、その幸せは、本当は、僕と。……ほら、ダメだ。未練がましい。  もう消えよう。十分だ。最後にここに、二人で来られたんだから。 「じゃあね、奈津美」 「おう!」  瞼を閉じたら、意識が飛んだ。 「亮二! 愛してるぜ!」  最後にそう、聞こえた気がした。           了
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加