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「はあー。よく寝た」
「おはよう」
「亮二もよく寝てたな」
「疲れてたのかな」
「わたしのお守に?」
「それもあるね」
「言うじゃんか。でもどうよ、今回の奈津美様の用意周到さ。成長したわーほんと」
「自分で言う?」
「じゃあ亮二が褒めろよ」
「うん、よくできました」
「おう。もう亮二はいらないな!」
「酷いなあ」
「だから、心配しなくていいからよ」
「うん」
「安心していけよ」
朝陽が昇った。目の奥に刺さって痛い。あの日よりも、何倍も眩しい。
「僕がいなくても、泣いちゃだめだよ?」
「バーカ。もう絞り出したわ」
「本当はもっとずっと、傍にいたかった」
「そういうのいいから。ほんと良いから、もう泣かないから」
別に、泣かそうとしているわけじゃないんだけどな。
「そう?目潤んでない?」
「よく見ろよ」
「どれど――」
確認しようとしたら目は閉じられて、冗談を言おうと思っていた口は塞がれた。
本当に、ずっと傍にいたかった。奈津美の横は、ずっと僕が良かった。
そう言ったら、信じてくれるかな。今なら、信じてくれそう。でも、それだとたぶん、泣かせちゃうよね。
だって今も、きっと。
「冥土の土産ってやつだ。初めてをくれてやるよ」
離れた奈津美は、してやったりと言う顔。
「次があると良いね」
本当は、ないと良い。でもそれは、僕が願っていいことじゃない。
「あるに決まってんだろ誰だと思ってんだ」
「奈津美だと思ってるから言ってるのに」
「うるせーな、ほら、浄化されろ」
「悪霊じゃないよ僕」
「なら、いつかまた会えんだろ」
「そうかもね」
そうだと嬉しいな。
なんだか言いたいことはたくさんあるのに、その全てが、言っちゃいけない言葉に思える。だから、曖昧に笑うしかない。
どうか、幸せであってほしい。それだけは、嘘偽りない。でも、その幸せは、本当は、僕と。……ほら、ダメだ。未練がましい。
もう消えよう。十分だ。最後にここに、二人で来られたんだから。
「じゃあね、奈津美」
「おう!」
瞼を閉じたら、意識が飛んだ。
「亮二! 愛してるぜ!」
最後にそう、聞こえた気がした。
了
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