憧れ

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ずっと憧れていた“ネイル”をするために初めて一人で遠出をした。  初めてネイルを知ったのはもうずいぶんと前のことだ。私が小学六年生の時、月に一度、家族で街中へでかけることがあった。山と畑と田んぼしかない田舎に住む私はそのお出かけをいつも楽しみにしていた。今思えばなんてことは無い、ただの寂れた商店街なんかを買い物がてら歩き回っていただけだったが、ちょうどその頃、街に初のコンビニができたばかりだった。ちょっとした騒ぎになっていた街の住人と同じく、普段であれば新しいものに対して否定シカしない古い慣習に雁字搦めの両親ですら、その都会の象徴に興味津々だった。私は人生初の自動ドアをくぐり抜け店内を歩き回った。食べ物、飲み物、お菓子から生活用品が何でも揃っていたが、一際目を引いたのが雑誌だった。地元には本屋なんてものはなく、雑誌なんてほとんど目にしたことはなかった。中でも一冊のファッション雑誌が心を掴んできた。手に取りページをめくると、テレビのCMでしかみないような格好をしたモデルの写真達を少し興奮気味に眺めていると、今月号のネイル特集を見つけた。自分より年上の人の手足の爪が、赤青緑黄橙紫白黒金銀、色彩豊かに塗られ、動物や花や模様が描き込まれ小さな絵画のように美しかった。文字通り一目惚れした私だったが、両親に猛烈に反対され、ネイル店どころかネットも通っていない我が家ではネイル道具すら変えないため、自分の爪を鮮やかに変えることはできなかった。
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