憧れ

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あれから六年経った。高校在学中も校則には書いていないにもかかわらず、先生にダメだと言われたできずじまいだった。なので卒業した後、地元で働き始める前に街中に住むクラスメイトから雑誌を借り、都会にある最新のネイルをしてくれる店を発見。実家から、慣れない電車とバスを数度乗り継ぎ三時間、春休みを利用してこうして単身やってきたわけだ。ここに来るまでだけでも相当名時間と労力を使ったが、三階以上の高さがある建物が樹木のごとく乱立した都会の地理は私の脳を苦しめた。地元であれば見渡すだけで一キロ先まで見えるのに、ここではビルと人の多さが視界を遮る。 降り立った駅から地図と悪戦苦闘すること約一時間。ようやくお目当てのネイル専門店までたどり着いた。お店の前まで来ると、数年間憧れ続けた思いが胸を熱くさせる。鼓動が速くなる。やっと手先足先を綺麗に彩れる。あの時目に焼き付いた雑誌のモデルと同じになれる。期待と少しの不安と多くの緊張を全身に持ちながら、勇気を持って扉を開ける。  いらっしゃいませ、と声をかけられ、ややひるみながらもここまで来た目的を告げる。 「すみません、ネイルをしてもらいたいんですけど・・・」 「え、あの、あなたがですか?」 「?ええ、はい。そうですけど。」 「申し訳ございません。当店は女性のお客様しかお受けしておりません。」  無言のまま店を出た。  私が憧れていた世界は、私が生まれたときから過ごしてきた世界となにもかわらなかった。田舎の両親も都会の店員も、まったく同じだった。昔からずっと何も変わらず、変わろうとするものは絶対に許さない。どうしてダメなのか、私には理由がわからなかった。そんな理不尽な世界で生きている。  ただ一人泣くしかできない私には、そうすることしかできなかった。
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