お隣さん

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 千代さんはもう靴を脱ぎ始めている。 「すみません本当に。妻は一度言い出すと利かないもので」  そう言いながら、源蔵さんの方もちゃっかり靴を緩め始めた。  断れる雰囲気ではなくなって、俺も半ばあきらめながら言った。 「いいですよ。どのみち今日はどこにも出掛けられないので」  二人が玄関に上がるのを待って、俺は居間へと案内した。  椅子にテーブルなんてしゃれたセットはない。ただ部屋の中央にコタツが置いてあるだけだ。いつ両親が来てもいいように、座布団だけは多めに用意してあったのはせめてもの救いだった。  適当に腰かけるように促すと、忘れてたと大げさなしぐさで紙袋を俺に手渡してきた。  二人が座るのを待って、俺はキッチンに立った。 「お茶とコーヒー、どちらがよろしいですか」  そう尋ねると、二人は同時に言った。 「あ、いえお構いなく」 「紅茶はないの?」  もちろん後者が千代さんだ。この人は結構天然なんだろうか。 「紅茶‥‥‥ああ、ありました。旦那さんも紅茶でいいですか?」 「すみません。本当に妻がわがままで」  最初は呆れていたそのやり取りも、慣れてくるとだんだん可笑しくなってきた。    源蔵さんが恐縮しているのが分かる。結構外では苦労してんだろうななどと思いながらも、このやり取りを妻にも見せてやりたいなとも思っていた。
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