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それから一週間後の土曜日、また救井夫婦が俺を訪ねてきた。
始めは耳を疑った。もしかして二人とも天然なのか?それとも生まれてこの方、人に裏切られたことがないのだろうか。
源蔵さんは俺に鍵を差し出すと、低姿勢にこう言ったのだ。
「今日から一週間、私共は温泉旅行に行くので、よろしかったらその間、家の管理をして頂けませんか」
千代さんも続けて言った。
「なにしろ旦那は金融機関を信用してなくって、お金の半分を家に保管してあるのよぉ。だから、家を空けるのが怖くって」
不思議なことに、この発言に源蔵さんのツッコミが入らなかったが、こちらとしては好都合だ。
俺は喜んでその申し出を受け入れた。
「そ、それで、いつからいつまで‥‥‥」
俺は動揺を隠しきれなかった。
「もうすぐにでも行きますのよ。おほほ」
「一日に一度だけでいいので、家の中が荒らされていないかとかチェックをお願いします」
裏表のなさそうな二人の満面の笑み、特に源蔵さんに至ってはこの時初めて笑顔を見せてくれた気がした。
「わ、分かりました。平日は帰ってきてからにでも確認しますね」
「よろしくね、勝正さん」
「お土産は買ってきますので、よろしくお願いします」
「お気になさらず、楽しんできてください」
二人は今回も同時に頭を下げると、静かに扉を閉じた。
微かな違和感を、その時俺は憶えたのだったけど、それが何なのかは分からなかった。
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