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俺、筑摩勝正は、子供の頃からホラー映画が大好きだった。
中でも見ていてワクワクするのが、あのド迫力の特殊メイクだ。
いつか制作する側になりたいと思っていて、小学校の文集にも書いた。
三十歳も折り返しに来た今、久しぶりにその文集を開いてみると、そこには子供ながらのいろんな夢が刻まれている。
『ケーキ屋さんになりたい』とか、『絶対歌手になる!』なんていうのもあって、今読み返してみると結構面白い。
結局その中で実際に夢を叶えられたのは、結局俺一人だった訳だけど。
でも、そのただ一人夢を叶えた俺も、その仕事を辞める決心をした。
決して俺の腕が悪い訳じゃない。上が余りにも凄すぎるのだ。
有名どころの特殊メイクは大物特殊メイクアーティストに奪われる一方で、俺はいつまでたっても三流映画からのオファーしか来なかった。
技術は絶賛されるが、それがお金にはならないとなると、この仕事を続けるにも限界がある。
新しいメイクを作り出すためには、毎日の試行錯誤が必要だというのに、それをするための道具、資材、材料調達が出来ないのは致命的だ。
五年前に結婚した妻から妊娠を伝えられた事も、俺の背中を押した。子供のためにも、空気の悪い都会から離れ、水も空気もおいしい田舎に住もうと思ったのだ。
これを機に今の仕事を辞め、新しい土地で普通に就職して、平凡に暮らそうかと妻に相談したら、快く同意してくれた。
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