お隣さん

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 土曜日は仕事ではないけれど、基本は自宅待機状態であった。何かの不都合で作業者が急な欠勤をしたり、あるいは過失があった場合のフォローを任されていたからだ。  そういう訳で土曜日は常に外に出歩くことは出来ない。  そんな俺の家に、あの老夫婦が尋ねてきた。 「改めまして、昨日からお隣に越してきました救井です。これからよろしくお願い致します」おじいさんの方がそう言うと、二人同時に深々と頭を下げた。手にはあの時と同じ紙袋が握られている。 「あ、いえ、こちらこそよろしくお、お願いします」  つられて小さく頭を下げると、二人は同時に頭を上げた。  しばしの沈黙の後、おばあさんが口を開いた。 「あの、ちょっとお邪魔してもよろしいでしょうかねぇ」 「え?」 「これこれ千代(ちよ)、いきなり失礼じゃないか」 「あら、いいじゃないの源蔵(げんそう)さん、知らない仲じゃないんだし」  いやいやいやいや、確かに初対面じゃないけど、前回はただあいさつしただけだぞ。知らない仲じゃないというよりは、知ってるだけの仲じゃないか。 「すみません。妻はこういった性格なもので、誰とでも友達と思いこんどるんですわ」 「はあ……」  でもこれで二人の名前が分かった。分かったからと言ってどうという事はないが。 「もう、源蔵さんったら失礼ね。誰とでもじゃないわ。知ってる人だけよ」  だから、知ってるだけ(・・)の人なんだけど。
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