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「お母さんは、料理が下手……」
「――だが、太陽のように明るく温かかった」
レイリスがもう会えない母の壊滅的な料理の腕――この場合コンロの扱い方に問題があったかもしれない――に衝撃を受けていると、イメージを訂正するようにレイナスが昔を懐かしむように話す。
「何があっても、いつでも温かく微笑んで俺を元気付けてくれてた」
「優しい……人だったんです?」
「あぁ、あの頃の俺はあまり同じ年の子供と遊べなかった。
そんな時母さんは、本を読んでくれたり一緒に遊んでくれたりした」
名前の刻まれた石碑を、そっと撫でながらレイナスは語る。
妹は母の事を語る兄を、じっと見つめ黙って聞いている。
「父さんは……寡黙な人だった。
母さんが何かしらの失敗をしたとしても、動じずに淡々と後片付けをしてたな」
「寡黙……?」
「人付き合いが下手だとは言ってたが、実際はどうだったんだろうな……」
いや、アイツは只の人間離れした変人だ。
思わず、言いそうになった言葉を飲み込む。
今ここで、父親のデメリットを話す必要は無いだろう。
そんなグリッドの気持ちも知らず、父親そっくりな見た目の息子が、絶対にフォンが浮かべない笑みを浮かべていた。
そっと懐に手をいれ、ある物を取り出す。
握りしめた手には、所々に錆が目立つ鉄製の鍵――
この鍵が最後に使われたのは、今から15年前――
「お前ら、次に行くぞッ!!」
そう声をかければ、3人はこちらにゆっくりと歩いてきた。
「次はどこに向かうんです?」
髪色が違うものの問いかける仕草は、亡き母親にそっくりであった。
「アイツらが暮らしてた家だ、あそこなら嬢ちゃんが毎年撮り続けた写真がある筈だ。
案外、レーナスの恥ずかしい写真があるかもしれないぜ?」
その言葉に強く反応したのは、何故か妹のレイリスでなく、同伴していたリオンの方で……
「行くぞ、イリス!
場所は母から聞いてる」
「ハイッ♪」
「――なっ!?
お前らちょっと待てッ!!」
率先して歩き出した2人の少女を追うように、レイナスも後を追いかける。
そんな彼らの姿を見つめながら、グリッドは先程まで彼等が立っていた場所を振り返った。
そこには、花言葉が【思い出】のローズマリーが風に吹かれて揺れていた。
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