泡沫の夢

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男は――リベルは撃った事を咎めようとはせず、流れた血を拭う。 「お前がここまで反応を示すとはな…… そんなに、あの『呪われた血筋』の女が大事だったのか?」 吐き捨てるように言った彼の目には、先程と打って代わって憎悪が込められていた。 「何故、彼女を巻き込んだ!? クラリスに何の怨みがあるッ!?」 「――何の、怨みだと? あの女はお前を狂わせた、完璧だったお前を堕落させたんだッ!! 存在そのものが、罪なんだよ――ッ!!」 彼女の名前が彼の沸点だったのか、フォンとの距離を弾丸の様に一気に縮める。 直ぐ様フォンも後方へと下がり、回避行動に徹する。 リベルが最も得意とする戦法は近接格闘、生身が武器そのものだ。 いくら防ごうとも、受けたダメージは体に蓄積される。 「――おらァッ!!」 「――グッ!?」 この雨の中で、相手の攻撃を見切る程に視界が良好な訳ではない。 回避は不可能、防御は無謀、ならばこちらも攻撃を仕掛けるべきだ。 最も使い慣れた愛刀は手元にはない、有るのは護身用のダガーナイフのみ―― それを抜き、前方にいる『敵』を見据える。 奴自身もただ構えたままの体勢、隠しきれない程の狂気じみた殺気を纏っていた。 「――やっとだ。 やっと本気になってくれたんだな、フォンッ!!」 この男に情けは無用、狙うのは急所のみ―― 再び、詰め寄ってきたリベルに対し、フォンはそこから一歩も動かなかった。 ただ、男の動きを観察し初手を見極め―― 「――ッ!?」 男の放った右ストレートを無謀にも左腕で防ぎ、そのままナイフを突き立てる。 痛みで僅かに怯んだ隙を見逃さず、男の溝うちに1発―― くの字に折れ曲がった男の体に、続けて回し蹴りを入れる。 リベルが先手を得意とするタイプなら、フォンは後手を得意としている。 中でもリベルに有効なのは、カウンター技だ。 相手の初手を見極め、それを防ぎ、反撃に転じる。 この男は初手を防がれると、少なからず動揺する。 それは、今も昔も変わっていなかった。 ――昔から、この『目』が嫌いだった…… ――相手の癖や動き、息遣い等を見切れる、洞察眼が…… あれしきのダメージでは倒れなかったのだろう、跳ばされた先でリベルがぬらりと立ち上がったのが見えた――
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