1人が本棚に入れています
本棚に追加
通報があった当初、璃蓮はそれを単なるゴロツキ関係の乱闘だと思い込んでいた。
ただ他の騎士たちは、例の自害した謎の侵入者達の事で手一杯な為、その日非番であった璃蓮に厄介事が転がり込んできたのだと――
しかし目の前に広がっている光景は、単なる乱闘なんていう生易しいものではなかった。
闘っていたのは2人の男、その内の1人は地面に倒れており顔はよく見えない。
そして、その男を踏みつけている――異常な程に殺気を放っているもう1人の緑髪の男は、ゆっくりとこちらを向く。
――あれは、やばい……
見た目は人ではあるが、気配は獲物を狩るハイエナそのものだ。
「随分とイタリアの騎士サマは、ノロマなんだなぁ?」
男が放った明らかにこちらを挑発するような発言、それに冷静に対処しながら予め抜いていた剣を構える。
「貴様が何者か知らんが……
このイタリアで下らん喧嘩を起こした罪、その身で償って貰うぞッ!!」
相変わらず無謀に立っている男に、先手を仕掛ける。
すると、璃蓮が近づいてくることを待っていたのか男は、あろうことか先程まで踏みつけていた相手を持ち上げ、投棄物の様に投げつけてきた。
「どんな腕力なんだよッ!?」
後ろで喚く部下を無視し、切り捨てようと剣を構える。
「―――何ッ!?」
雨の所為で視界が悪かった為か、それが誰だったのか判別すら出来なかった。
しかし間近に迫ってきて、初めて『飛ばされてきたそれ』が、数時間前から姿を見せなかったレイナスの父親――フォンであった事を認識する。
「――ぐッ!?」
衝撃的な事実に剣を振る事も、彼を避ける事さえも璃蓮には出来なかった。
「何やってんだ、璃蓮ッ!!」
予想外な璃蓮の行動に、レンツィアの怒声が響く。
璃蓮とてあの行動は、自分らしくない事ぐらい理解している。
しかし――
数時間前のレイナスの顔が、時間になっても現れなかった父親を待ち続けていた子供の淋しそうな顔が脳裏に甦る。
まだ助かる見込みが有るかもしれない男を、璃蓮は斬る事が出来なかった。
最初のコメントを投稿しよう!