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「――くそッ!?
何で俺が……」
そう毒づきながら、レンツィアが璃蓮の前に飛び出し男と対峙する。
牽制目的で振るったレンツィアの剣は――
「本気で、……ヤるつもりがあんのか?」
レンツィアなりに全力で振った剣撃を、その男はあろうことか素手で握りしめていた。
その手に剣が食い込み血が流れ出ようと、男は眉ひとつ動かさない。
対峙するレンツィアも、その場から一歩も動かない。
否、動けないのだ。
振りほどこうと力を込めているのだろう、僅かではあるが剣が震えている。
しかし、男が握っている所為でそれは叶わない……
「どんな握力してんだよ、テメェ……」
レンツィアの言葉に、男の口元が弧を描く――
それはまるで、夜空に浮かぶ三日月のように……
――それと共に、剣が乾いた音を立てて砕ける。
男が握りしめる力を強めたのか、真っ二つにレンツィアの剣は折られてしまった。
その行為に璃蓮は勿論、折られた剣の持ち主だったレンツィアさえも絶句する。
「あいにく、俺のここでの用事は終わった……
テメェらとじゃれあうつもりは、微塵もねぇよ」
「……用事、だと?」
璃蓮が抱き抱えるフォンを、冷めた目で見下ろす男は言葉を続ける。
「『呪われた血筋の女』が作り出したアイツの偽者を、やっと処分できたからな?
これでアイツも戻ってきてくれる筈だ……」
――コイツは、何を言っている……?
璃蓮には目の前の男が何を言っているのか、一ミリも分からなかった。
ただひとつわかるとすれば、この男は狂っている、それだけだ。
「……しまっ――ッ!?」
男の言葉に油断が生じたのか、対峙していたレンツィアが蹴飛ばされる。
その一瞬の間に、男は身を翻し雨の中に姿を消してしまった。
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