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……もしや、とは思っていた。
あの時サフィラがクラリスを運んできた時、クラリスにはモスグリーンのコートがかかっていた。
それは、元々フォンが着ていた物であったことを璃蓮は知っている。
恐らく、この男は撃たれたクラリスと会っていたのだ。
己の妻を撃たれ、この男の心情はどうだったのだろう?
考えるまでもない、この惨状が答えなのだから……
「……そう……か、……ならば……
……彼女…と、こ……ども…を……、た……の―――」
璃蓮の服を僅かな力で握りしめていた手が重力に従い、だらりとぶら下がる。
先程まで視線が安定していなかった緋色の瞳は、暗く濁り――
――彼の体が冷たいのは、雨の所為であって……
――彼の体がぐったりしているのは、疲れきっているからであって……
「――ふざけるな……
まだ、お前にはやるべき事が有る筈だ……
お前は、この程度の事でくたばる筈が……
……お前は――ッ!!」
「――璃蓮ッ!!」
ピクリとも動かないフォンを揺さぶる璃蓮、そんな彼の名をレンツィアが叫ぶ。
ゆっくりとレンツィアの方を向けば、雨に濡れた彼の顔がそこにあった。
その瞳に映る璃蓮の顔も、やはり同じように濡れていて――
傍で見守っていたレンツィアは、璃蓮に言い聞かせるように、ゆっくりと口を開く――
「……もう、死んでる」
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