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あの後璃蓮は、現場に駆けつけた部下たちにその場を任せて病院へと向かった。
彼の頭を占めているのは、どうクラリスに説明するかについて――
優しい彼女の事だ、突然の夫の死に堪えられるだろうか?
不本意ではあるが、部下であるレンツィアに相談しようと後ろを見るが、レンツィアは側には居なかった。
何故……、と少し考えて数分前の事を思い出す。
彼には、未だ行方の分からないフォンの息子であるレイナスを捜索して貰ったのだった。
本来なら璃蓮が直接、レイナスを捜そうと思っていた。
しかし――
「その子は俺が捜す……
今のお前だと、その子を捜す為に川にも飛び込みそうだからな」
レンツィアが放ったその言葉を、璃蓮は否定できなかった。
クラリスが搬送された病院へ赴くと、入り口にはイタリアの女王――アルテミスの夫でありお目付け役でもある弥月の姿――
そこで彼の口から伝えられた事実に、璃蓮は言葉を失った――
――気が付くと、院内に設けられた中庭に、未だ降り続く雨の中に1人で立っていた。
どうやら無意識で歩いて此処まで来たようだ、それまでの道のりが思い出せない。
「僕の予定を勝手に狂わすなよ……」
ポツリと呟いた璃蓮の声は、雨音に掻き消された。
いつもうやむやにされ決着が着かない試合を、璃蓮は勝つつもりでいた。
いずれ自分を越える、幼いレイナスから聞いた彼の本音――
その言葉にどれだけの重みがあったのか、彼は知らずに逝ってしまった……
璃蓮とて剣士の端くれ、一度でいいから全力の彼と剣を交えたかった。
彼の言葉通り、フォンを越えてみたかった……
「………………くっ!!」
心の内に生まれたやり場のない感情を、無機質な病院の壁にぶつける。
しかし壁を殴ったところで、後悔も苛立ちも消えることはなく……
「何で……お前達なんだ……?」
――何故、彼が殺されなきゃならない?
――何故、彼女が撃たれなければならない?
――何故、子供が親を奪われなければならない?
――何故……
「何故、今日でなければダメなんだ……」
まだ、クラリスは子供を産んでいなかった。
フォンもレイナスも、新しい家族に会うことすら叶わなかった。
「あいつらになんの罪があるんだ……」
いくらぼやこうと、どれ程後悔しようと、失われた命は還ってこない、永遠に――
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