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クラリスが命を賭けて護り抜いた子供の髪色は、父親のフォンや兄であるレイナスと同じ茶色――
しかしその双瞳は、母であるクラリスと同じ深海のような藍色だった。
小さな身体で産声を上げながら、新たに誕生した赤子はクラリスに良く似た顔立ちの女の子――
従妹の忘れ形見であるその子を、雪華は先月生まれたばかりのリオンと共に育てるつもりでいた。
しかし、共に過ごして数週間後――
突如原因不明の高熱が、まだ乳幼児であるその子を襲ったのだ。
乳幼児である為解熱剤を飲ませる訳にもいかず、雪華に出来たのは気休めに冷たいタオルで汗を拭いてあげる事だけ……
後にその子を診た医者から告げられた内容に、雪華は言葉を失った。
彼女曰く、リオンの呪いがその子に影響を与え高熱を引き起こしている確率が高い、との事。
リオンがその身に受けたヴァルフォアの呪いを制御しきれない、その事は雪華も知っていた。
しかし、何故この子にまで影響が及ぶのだ?
十二支の呪いを受けたヴァルフォアに生まれる子供は、どの世代も12人まで。
しかし、この子達の世代はリオンとこの子、そしてリオンと同じ日に生まれた子を合わせて15人――
イレギュラーに該当する従妹の忘れ形見は、他の呪いの影響を受けやすい体質だったのだ。
更に乳幼児である今は、免疫力も体力もない、ここままでは命に関わる――
ヴァルフォアという血筋に囚われずに生きて欲しい、それはかつてクラリスが子供に願った細やかな願いだった。
雪華が選んだ答えは、その子をヴァルフォアとは縁のない者に託すしか残されていなかった。
それ故祖国がイギリスであり、あの日偶然クラリスを見つけてくれたサフィラにその子を託した。
きっと彼女なら、これから何があろうと従妹の愛娘を護ってくれる筈だ。
しかしまだ安堵できる状態ではない、従妹のもう1人の子供――レイナスが未だ見つかっていないのだ。
騎士団の者が総動員で今回の事件に当たっているものの、その足跡の報告は1つも無い。
あの子はまだ5歳、1人で行動するには些か危険すぎる。
それに、レイナスはずっとクラリスの傍に居たのだ。
恐らくレイナスは、クラリスが狙撃された瞬間を見ている筈だ。
その事実が、あの子の心情にどのような作用を齎らすか……
レイナスの目撃情報を待っていた雪華の元には、結局1通も届く事は無かった――
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