第2章 旅路の始まり

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頼むから声なんてかけないでくれ、普通の帰省客の1人としてほっといてくれ、僕はそう思っている。 「てえ、なんでえ、このガキは」と言いながら青年は去って行った。 僕は忙しいんだ。親のこと、一族のこと、音楽のこと、恋だの愛だのいうこと、大学のこと、いったいどうなっていくんだ? そのことに頭を使うと、楽しかった山形での夏休みも陰鬱になってくる。 この客車が列車番号831で時刻表では電車やディーゼル車ではなく客車を表し、旧型の客車であることは、知っていた。またこんな客車が走っているのは、この奥羽本線や羽越本線、磐越西線、北陸本線、山陰本線など、当時でも失礼だが田舎であり、それでも山陰本線を除く電線が通っている電化区間でしか走っていないことも時刻表で察知できていた。子供の変な知識は半端なく発達するものだ。     * 僕は声をかけてきた青年のように、わざわざここまで来て写真を撮りまくるような鉄道ファンでもない。正確にいえば、バンド少年であり、元野球・バスケット少年であり、ゲーム少年であり、ガンダムが大好きな、どこにでもいるような少年でいたかった。 僕は、青年に、鉄道ファンだと思われて、声をかければ意気投合する、とでも思われるのが嫌だった。     
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