希望を信じて

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「まずい、もうこんな時間だ」  翔太は寝坊してしまった。目覚まし時計が夜中の二時で止まっていた。全速力で走っていけばギリギリ遅刻せずにすむかもしれないという微妙(びみょう)なところだった。なんでお母さんは起こしてくれなかったのだろうと、ぶつくさ文句を言いながら着替えをする。その答えはすぐにわかった。お母さんも、寝坊していたのだ。翔太はお母さんに直接文句を言いたかったがお母さんを起さずに家を飛び出した。  とにかく走れ。急げ。 「はぁ、はぁ、はぁ、あと五分。間に合ってくれ」  学校の少し手前にある真っ白な病院の前を通りかかったとき、空きカンをくわえた白ネコが横切った。白ネコは翔太には気づかず病院横の生け垣を忍者のようにピョーンと軽々飛び越えていった。 「あれ、白ネコさん、なんでこんなところに」  翔太は足を止めて静まり返った病院に向かう白ネコの姿に目をうばわれた。白ネコは遅刻寸前の翔太に負けないくらいの速さであっという間に病院の裏手に消えていく。翔太はハッと我に返って学校へと向けてまた走りはじめた。白ネコのことは気になったけど、今は急がなきゃ。  教室の扉をガラッと勢いよく開けた。 「あっ、美智子先生。おはようございます」 「翔太くん、一分遅刻ですね。寝坊かな」  間に合わなかったか。白ネコをみかけて足を止めなかったら間に合っていたのだろうか。 「あっ、はい。でも、白ネコさんが……いや、なんでもないです」 「んっ、白ネコ?」 「……」 「まあ、いいわ。早くすわりなさい」  翔太は苦笑いを浮かべて席についた。なんだか気まずい。
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