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「さとみ、寒くない? もう少しだからね」
「うん」
さとみはお母さんと実家に向かっていた。歩いていると公園が見えてきた。
「お母さん、ちょっとだけ遊んでいっていい?」
「ええ、いいわよ。ちょっとだけね」
「うん」
お母さんの声はなんだか気のぬけたさみしい感じがする。お母さんも自分と同じなのだろう、きっと。
「さとみ、お母さん、先におばあちゃんのところに行って来るわね。あとでむかえに来るから」
お母さんはそうつぶやくように話すと先に行ってしまった。さとみは一人で公園の中へとぼとぼと歩いていった。そこには小さな池があった。すきとおった水で、鏡のようにキラキラ光っていた。
きれいだ。池に近づき、しゃがみ込んでちょっとのぞきこむと自分の顔が映っていた。なんだかブサイクな顔。
お父さんはなんで天国に行ってしまったのだろう。さとみは小さく息を吐き立ち上がる。あたりを見回すとすぐ向こうにペンキのはげた木のベンチがあった。さとみはそこにすわりときおり風にゆれる池の水面をながめた。ながめていると、水面に映る景色がユラユラゆれて池の中へ吸い込まれそうな感覚におちいった。
さとみは再び小さく息を吐く。
あれ、あんなところにネコがいる。真っ白できれい。そう思っていたら白ネコがとぼとぼと近づいてきた。なぜだろう、さとみには白ネコもさみしそうに見えた。もしかしたら、あの白ネコはひとりぼっちなのかも。自分と友達になりたいのかも。
なんでそんなこと思うのだろうか。不思議だ。ネコの気持ちなんてわかるはずないのに。
カンカラカーン。
さとみは音のするほうへ目をやると強い風に吹かれて、公園に捨てられていた空きカンが転がっていた。あっちへコロコロ、こっちへコロコロ。
なんだか変なの。風が空きカンで遊んでいるみたい。
しばらく転がる空きカンをながめていたら、さとみの足もとに転がってきた。拾おうと手を伸ばしたのだが、空きカンは強い風にあおられてベンチの下を通って後ろへ転がっていってしまった。
さとみの髪も風でボサボサになってしまった。
ああ、もうイヤになる。
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