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さとみはふと空を見上げた。いつの間にか空を覆うように黒い雲が群がっていた。さっきまで陽が照っていたのに。雨が降ってくるかも。
強い風がまたしても髪を振り乱す。
寒い。なんだか凍えてしまいそうだ。お母さんには悪いけど、それもいいのかもしれない。
「お父さん、私、死にたい。このまま生きていてもつまらないんだもの」
さとみはぼそりとつぶやいた。
「うわっ、な、なに」
ますます風の勢いが増していく。
木々がゆれ、池の水も波打ちはじめ、さとみの髪もめちゃくちゃにしてしまうぐらいの突風が吹きあれた。気づくと池の水があら海のように大波を作り、さとみの目の前におおいかぶさろうとしていた。さとみは思わず目を閉じて顔をそらした。
あれ、どうしたのだろう。何も起こらない。恐る恐るさとみは瞼を上げると不思議なことに大波がピタリと止まっていた。まるでリモコンで一時停止ボタンを押したみたいだ。
なんで、どうして。こんなことあるの。これって夢だったの。
さとみは訳がわからなかった。
えっ、ウソ。
さとみは体が強張り動けなかった。
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