異世界へようこそ

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異世界へようこそ

あれ?身体中が痛い。 体に違和感を感じながら目を覚ます。 なぜか瞼を開けるだけでも、物凄い力が必要だった。自分の体が重すぎる!! あっ!そういえば、私階段から突き飛ばされて、そして、そして…どうしたっけ? 思考がなかなか定まらない中、 ゆっくり目を開けることが出来た。 やっぱりひどい事になってるんじゃないの? 階段から落とされてるんだもの。 動かない身体を心配しながら見た天井に 見覚えのない天蓋がみえる。 自宅でも、外でも、病院でもない。 ここはどこなんだろう。 とても静かな空間。 花の良い香りが辺りに漂い、心地よい風が優しく吹き抜けている。 「ねぇ、目を覚ましたの?」 「本当だ!おはよー!」 「やっと話せるね。」 「待ってたよ、長い間。」 突然、可愛らしい声が耳元で聞こえた。 でも、顔が動かせない。 一体私の体はどうなっているのか。 そして、この声の持ち主は誰なのか。 話そうとしたが、声も出せない。 えっ?!嘘でしょう? じぶんの身体なのに、他人の体みたい。 自分の意思で全く動かす事が出来ない。 声すら出せないなんて!! 「声出したいの?」 「声出せないの?」 「なら、こうすればいーよね!」 「これなら話せるよね!」 その途端、暖かい何かが身体をふんわりと包んだ。それに何だか凄く気持ちが良い。 これって、お日様の下で日なたぼっこをしている時に似てるかも。 「なんだか気持ち良いかも〜。」 あれ? ひょっとして、今声出せたかも。 「あっ!あっ!あいうえおーっっ!! やっぱり声出せたーっ!!」 「でしょ!」 「もう話せるね。」 「僕たちだいぶお暇してたんだよ。」 「お昼寝長かったもんね!」 んっ?!やっぱり誰か居る! しかも何人も! 私の言葉に反応して、返事を返してくれる人達が近くに居る様だ。 声質と話し方からすると、小さい子供達みたいだけど、顔が動かせないから横が見えない。 「ねぇ、あなた達は誰なの?私に教えてくれない?」 そう話した途端、突然空気が変わった。 見えないけれど、先程の陽だまりの様な暖かさから一変して、今はゾクゾクする程空気が冷えているのが分かる。 なに?私何か怒らせる事言った?? 「何故そんな事を言うの?」 「僕達が分からないの?」 「なんかおかしくないか?」 「おかしいねぇ!偽物なんじゃない?」 偽物って?何の事? 私の質問に明らかに怒っている。 あんな質問した位で怒るなんて思わないじゃなーい!一体なんなのっ?! 「僕達を騙しているなら、お仕置きだよね。」 「そーだ、そーだ!!」 「でもね、魂は同じだよ!」 「あれ?同じだね。」 冷たい空気をまとわせながら、私の横で話し合っている。 どうやら、私か私じゃないかでこの先の運命が分かれる様だ。であれば安心出来る方が良いのだけれど。 だって、ここは何処だか分からないし、私の身体が今どんな状態かも分からないし、横に誰が居るのかも見えないし、為すがまま状態!!危険度MAX状態じゃないのーっ!! 「わ、私は私だし。それ以外の誰でもないし。体が上手く動かせないから、貴方達も見えない状態で確認も出来ないから仕方ないじゃない!」 などと、言い訳してみる。 このままいくと、凄く危険な気がする。 訳の分からない所で、分からない人達に何かされるのは阻止したい!!絶対に!! せめて、この体が自由になればいいのに! 頑張って首を動かそうとしても、全く動かせない。話せるようになった様に体も動けば…。 「初めからそう言えば良いのに。」 「僕たちは、ソフィアの味方なんだから!」 「ソフィアと目を見て話したくてずっと我慢してたんだからね!」 「そーだよ!いつまでも眠り過ぎなんだよ!」 その途端、今までの冷たく寒かった空気が嘘のようにふわっと温まり、私の体がまるで空気のように軽く浮かんだ。 ぽかぽかと体全部が暖かいものに包まれる。 凄く気持ちいいなぁ〜。 誰かに優しく抱き抱えてもらっているみたい。 こんなに体が軽いなら、動かせるんじゃないの? えいっ!!と体を起こすべく力をいれてみたら、軽く体が起き上がってしまった。 「えっ?!えーっっ!!!」 私は素っ頓狂な声を上げて、ただただ驚く事しか出来なかった。 いままで指一つ自分の意思では動かせなかったものが、今はなんの問題も無く動かせるという不思議な事が自分に起きているのだ。 そしてハッと気がつく。 そうだ!あの声の主達をこの目で確認しなければならないのだ! くるりと振り返った先に居た者達は、私を更に混乱させた。 虫?? いや、虫が話すなんて有り得ない。 なら、あのキラキラ光りながら飛んでいる小さい物は何なんだっ!? 「やっと顔を見て話せるね〜。」 「私が先におしゃべりするんだからね!」 「いやいや、俺だって!」 「私って決まってるもーん!!」 いや、だから、コレは何なんだ。 夢を見てるんだろうか? いや、そうだよ。 こんな私が大好きなファンタジーの世界にしか存在しない、妖精が目の前に居るんだもの!間違いないよ!こりゃ夢だわ〜! なら、今の状況は楽しんでいいって事だよね。いやいや、逆に楽しまなくちゃ損だよね!まだまだ目が覚めませんように!! なーんて祈ってみる。 憧れのファンタジー世界を私が体感しているなんて。これなら、階段落ちも悪く無いのかもしれないと思えて来る。 でも、喜んでばかりはいられない。 夢とは言え、現状を把握せねば。 まずは、記憶が混乱してイマイチ分からない人に成り切ってみるかな。 妖精さんを味方にして、夢を堪能したいし。 取り敢えず笑っておこう。 私は妖精の方を見てニッコリと笑いながら、 「えーと、私何だか混乱しているみたいで、記憶が飛んでいるというか。いまいち状況を把握しきれないというか。どうしてここで寝ていたのか教えてくれる?」 妖精達は、目と目を合わせて大きく頷いた。 その言葉で今までの私の態度が腑に落ちたようだった。 キラキラと赤く輝く妖精が口を開く。 「私の名前は?思い出せない?ソフィア ?」 「ソフィア?私はるりだよ?」 赤い妖精は、大きな溜め息をついた。 よく見ると、他の妖精達も同じ様に溜め息をついている。 「そこから?そこからなの?」 「でも仕方ないよ!もうずーっと寝てたんだから。」 黄色にキラキラ輝く妖精が間に割り込んで話し出す。 「私って、そんなに眠ってたの?」 ずーっとの意味が凄く気になる。 「うんとね、何年もだよ。」 「な、な、何年もっ!?」 数日の話ではなく、何年も? この夢、設定細かいなぁ。 そんなに眠ってるって、眠り姫みたい。まっ、姫ってキャラじゃないんだけどさ。あー!夢の中まで卑屈だな。やだやだ。 「多分、40年位かな。」 「へっ?」 40年っ??なんだその設定!! ビックリしたーっ!! 異世界来たら、40年も寝たきりだったなんて!どんなキャラだよ! あれ?なら、私の年齢って?まさかの? 「き、聞きたくはないけど、私の年齢は?」 今度は青くキラキラ輝く妖精が、ニッコリと笑いながら教えてくれた。 「46歳。人生これからだねー!」 まーじーかーっ!! ファンタジーの世界へ転生したら、性別変わったり、若くなったり、勇者になったり、全く別人になるはずじゃなーい! なのに、何?私? 現実世界と全く変わらないなんて!! やっぱり、私の夢だけあるー!! 平凡過ぎて嫌になるわぁ!! でも、あれ?と気づく。 いや、待てよ、年齢は変わらないけど、ものすんごく美形になってるとか無いかしら? これは、今すぐ鏡を確認するしかない! ベッドから勢いよく飛び出ると、部屋のどこかに鏡が無いかと探し出す。 すると部屋の隅に楕円形で周りを小さな宝石が散りばめられている、可愛らしい鏡を見つけた。急いで自分の姿を確認する。 「あーっ!!!」 やはり、やはりか! 期待はしてなかったと言えば嘘にはなるけど、夢だもの!ここは美人になってるはずじゃないのよーっ!! そう、私の姿は悲しいかな全く変わっていなかったのだ。 力が抜けて、その場にへなへなと座り込む。 「どうしたの?大丈夫?」 「あー、うん。まっ、私のままだったから、ちょっと悲しくなっただけ。」 力なくははは、と笑う。 「なんで悲しいの?昔も今もソフィアは綺麗だよ。魔力だって強いし、魂だってキラキラしてるし、私は大好きよ。」 「そうだよ!凄くキラキラして綺麗だよ。」 「私が綺麗?」 「うん。すっごく綺麗。」 「私きれいかなぁ?」 「綺麗!!」 そんなにはっきり言われたら、いくらお世辞とはいえ照れちゃうよ。 「それと魔力って、私あるの?もしかして魔法使えたりするの?」 「えぇー?それも忘れてるの?この世界で1番聖女に近いと言われてるのに。」 聖女!!私がっ!? やっぱりファンタジー色が強い夢なんだ。 だけど見た目は悲しいかな、現実と全く代わり映えしないんだよね。 大好きな世界観だけど、そこは何とかならなかったのかな。悲しい…。 そんな事をしんみり考えていた時だった。 赤い妖精が私の前にいきなり飛んできたかと思うと、キッとドアを睨み始めた。 「あいつが来る!」 すると他の妖精も慌てて私の周りに集まった。そして、同じ様にドアを睨みつける。 なに?あいつって? 「あいつは、ソフィアを独り占めしようとするから嫌いだ!」 そう言い終わるのが早いか、突然部屋のドアが開けられる。 そこには両手に花を抱えた青年が立っていた。 青年は私と目が合うと、一瞬驚いた顔をした後、両手に抱えていた花をその場に勢いよく落としてしまった。 「ソ、ソフィア様?目を覚ましたのですか?」 「えっ?あ、うん、そうみたいです。」 そう吃りながら答えると、突然その場からこちらに向かって駆け寄ってきた。私の目の前に居た威嚇している妖精を軽く片手で押し退け、私に両手を広げて近づいた後、思いっきり抱きしめてきたのだった。 「お目覚めになるのをどんなに待っていたと思っておいでですか!この日をどんなに夢見ていたと!」
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