異世界漫遊記

Ⅰ：落ちるだけの涙

花曇りの下を泳いで行く。すいすいと陽気そうに嘯きながら景色を見渡す。―眼下には土手沿いに続くソメイヨシノが現実の美しさを自慢している。ちょっと向こうの方ではナリヒラダケに潰された家屋が現実の醜さを訴えている。

―涙が出そうだ。ただ、涙が出そうだ。

私は死んだ。そう私は今魂となって中空を泳いでいる。

テニスコートではしゃいでいる中学生達のつむじがしっかりと確認できることが何よりの証拠だ。あのつやつやでさらさらの髪の源泉が私の正体を証明してくれる。

「やっぱり、僕も漫遊します。」

異常なまでに痩せた身体(からだ)に、鶴のような嘴をもったそいつは無言で頷き、ズボンのポケット（それをポケットと言っていいのかどうか分からない。というのも、服もズボンも直接皮膚に縫い付けたように着用しているからだ）から紙切れを私に差し出した。