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そこにはこう記してあった。
『良い死後の生活を―人は永久に智を崇拝する生き物である』
何をいまさら。紙切れを自らのポケットにしまった私はなんだか馬鹿にされたようで、俗世界に引き戻されたようで、また涙が出そうになった。
涙を必死に抑えようとするのは、地上からの癖である。
しかしよく考えてみたらここでは涙を抑える理由がない。
そいつはいるがそれはいないに等しい。そう思っていると、次第に首筋の緊張が消え、涙が出てきた。
―泣いた。子供のようにしゃくりあげながら薄明るい空の中で独り、きっと現世に対する最後の後悔として涙を注ぎ落とした。
次々と感情が押し寄せてくる。ああ、もういけない。さっきから同じ回想を何遍も繰り返している。
あの娘のことだ。結局生涯、本気で人を好きになったのは一度きりだったことを痛感した。―それも初恋だ。
その後も家族や学生時代の部活の友達や、これまで自分が頑張ってきたことなどが、私の涙する眼の奥を繰り返し繰り返し襲った。―悲しい、そして虚しい。その感情に私は嗚咽した。
しばくして漸く感情が収まった。もう雲が橙色に染まるほどに太陽は西に傾いて、テニスコートで遊ぶ中学生たちの姿ももうそこには無かった。
覚悟を決めた私は一時的に現世を離れることを、ずっと無言で表情ひとつ変えずいたそいつに告げた。それは赤カビの繁殖した風呂の天井に言うのに似ていた。
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