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04_さて、そろそろ本題といきますか。
さて、そろそろ本題といきますか。
いくら暇だったからって、悪魔召喚しといて眺めて終わりって馬鹿もおるまい。
異界の存在を呼び出したからには、当然、こちらとしても要求がある。
「でだ、ゾフよ」
飼い主に呼ばれた犬そのものの動きで俺を見上げる。
「悪魔っていうからには、できるんだろ」
「なにをだ?」
「その、魔法とか、超能力とか、呪いとか、そういう超常的なやつ」
わうっ。
今、慌てたよなこいつ? 完全に、焦って目を剥いたよな??
「……もしかして、できないのか?」
「そそそそ、そんなことない、ないぞっ」
世界有数の信頼感のなさ。
「じゃ、何ができるんだ?」
「がうっ」
絶望感ある吠え方したあと、ダラダラ汗かきながら目を泳がせる。
やっぱこれ、相当低級なやつだな? なんならインプとか以下だな??
「……だっ、えっ、と、とにかく! あるなら言え! 願いごとだろ!?」
噛みつくように、すがるように。
言葉の強さの割に、目に宿る許してくださいオーラがハンパない。
「……まあ、そりゃ願いごとくらいあるが」
「言えっ。言えっ」
うーん、なんというか、あまりにも心許ないぞ。
まあいいか。どうせ、激安イチゴ1パック298円しか元手かけてないんだし。ダメ元ってやつだ。
「あー。実はだ。今俺、働いてない」
「わう?」
「クッソムカつく客が来たから正論で罵倒したらクビになった」
ゾフが、俺の目の奥を覗き込むようにじっと見つめる。
「主、じゃあ、無職か」
改めて、学生風情の低級悪魔に言われるとグサっと来るな。
「まあ、そういうことになるか」
「じゃあ、その客を殺せばいいか?」
得意だぞ、とばかりに目を輝かせるゾフ。
悪魔らしいところは評価するが、いや、そうじゃない。
「気持ちは晴れるかもしれんが、殺したところで俺の無職は変わらん」
「わう? じゃ、何がしたいんだ?」
「金か、仕事が欲しい」
ゾフは首をかしげてしばらくきょとんとしていた。
「金……仕事……」
びょこん、とゾフの両耳が立ち上がる。
「わかった! その客を殺して、金を奪うんだな!」
「頼むから殺しから離れてくれ」
しゅん、と耳が萎れた。
「やっぱり……無理か。ゾフには」
そそそ、そんなこと、とゾフが言いかけたところで、洗濯機がピーピー鳴った。
乾燥機つきのやつだから、ゾフの服が乾いたってことだろう。
悪魔の服がタンブラー乾燥不可なのかどうかわからなかったが、タグ付いてないほうが悪い。
めっちゃ縮んでたら笑えるな、と思ったが、ゾフの服はわりといい感じにふんわり洗い上がっていた。
「なんか、主、熱っ、あっちいぞ、オレの服」
だろうな、とだけあしらって、着替えたゾフを改めて眺める。
目深に被ったフードと、コートの長い裾で、耳とシッポがちょうど隠れてる。
これならまあ、外に連れ出してもギリ問題にはならんか。
まあ、耳とシッポが生えてるくらいじゃ、昨今の東京で騒ぎになるとも思えんが。
「要するに、だ」
「なななな、なんだ!?」
「ゾフには、主人の願いごとを叶える力はない、と」
ギョワ、だかギュエ、だか、圧死したカエルみたいな声を出して硬直するゾフ。
ぶるぶるっと身震いしたかと思うと、びょんと天井近くまで飛び上がった。
「金と仕事だな! わかった。オレについてこい!」
飛び上がった勢いのまま、突進するように玄関を飛び出していく。
あ、これ、もしかしてだいぶヤバいやつ?
とりあえず、飼い主の責任として、鍵とiPhoneと財布だけ持って俺はゾフの後を追った。
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