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人混みに紛れて港に向かうと船が何隻か停まっていた。乗る船は宿の主人に聞いておいたから、僕は迷わずその船に向かった。地味な灰色の塗装がしてある大きな鉄の輸送船である。
ザイル号というその船は出航間近で甲板へと続く板は外されていた。けれど隣の船の積荷が近くに積んであり、真ん中ほどにある大砲を出す窓から中に入れた。輸送用の船でも海賊に襲われることがあるため大砲はどの船も常備してあるのだ。
「……」
中に入ってから荷物の詰まった光の当たらない角に行き、首から掛けている魔石のペンダントをギュッと握って出航を待った。魔石が無ければモタカーメルは動かず、アキークは僕を追って来られない。動かないのならモタカーメルに乗ることもない。これであの夢のようにはならず、アキークの死は回避される。
命を奪われるより海賊としての人生を奪われるほうが、あなたにとって苦しいことかもしれない。でも、あなたが殺されてしまうなんて僕には堪えられない。
「アキーク……」
たとえ離れていても、僕はあなたを想い続ける。あなたが望んでくれるなら。あなたが許してくれるなら。
「ごめんなさい……っ、ごめ……さい……」
船が無事に港を出た後、暫く、僕は積荷の陰に隠れて泣いた。
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