雪豹の真実

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「こいつを俺に寄越せ、番を解消する必要はない、精神的ショックで使い物にならなくなったら困るからな。その代わり、この国に手出しはしないでやる」  アキークが隣に立ち、僕を乱暴に引き寄せた。わざと乱暴に扱っているように見せているのかもしれない。 「貴様、我輩が国の勝利だけを求めていると思っているな?だが残念だったな、我輩は戦いを好んでいるのだ。他人の怯える顔や他人の不幸を見るのは実に面白い」  ────この男は歪んでいる……。 「ナキ、今から何が起こっても口を閉ざして動くな」  早口で耳打ちされ、僕はハッと息を呑んだ。  ────まさか……! 「その男を押さえろ」  王の言葉を聞き、僕の後ろに立っていた兵士と横に居た兵士のうちの一人がアキークの両腕を押さえ、僕と対面するように跪かせた。甲冑を着た兵士から剣を抜き取り、王がこちらに歩いてくる。どうして、アキークは抵抗しないのだろうか。 「死に晒せ」  勢い良く振り上げた剣を王はアキークの背に振り下ろした。 「愛してる」  またアキークは声に出さなかった。兵士の支えがなくなったアキークの身体は静かに僕の足元に倒れ、ピクリとも動かなくなった。赤い血が床に広がっていく。でも、僕はアキークに言われた通り何も言わず、その場からも動かなかった。
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